共産主義者同盟(統一委員会)






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■『戦旗』1614号(5月20日)3面

 
高齢者・障害者の権利確立し、
  介護労働者の待遇改善を進め、
   公的介護の危機を突破しよう

                       
土肥耕作

 



 介護保険が危機に瀕しているといわれて久しい。経営者や、運動から距離を取ってきた現場介護労働者、研究者なども「介護保険が危ない。改革必至」と異口同音に声が上がるようになった。
 その背景には、介護現場の破綻がある。高齢人口の増大に伴い介護労働者の必要人数は膨れ上がっている。図1は厚生労働省の介護労働者の需要予測だが、二〇一九年度を基準として二三年度(来年度だ!)で二二万人、二五年度で三二万人、四〇年度ではなんと六九万人の上乗せが必要だとされている。
 ところが現実の介護現場は、慢性的な人手不足でどこの事業所も苦労している。特に悲惨なホームヘルパーの分野では有効求人倍率が一五倍を前後するありさま。介護労働者が不足するために入居系施設で定員まで利用者を入れないという措置も、多くの事業所でとられている。介護者不足で人事倒産や事業所閉鎖も発生している。

●1章 人手不足に対する二つの回答

 介護労働者の人手不足の原因ははっきりしている。全産業平均賃金に対して月平均八・五~一〇万円も低い賃金だ。
 介護労働は身体能力を用いる労働と利用者の状況の観察・分析といった精神的な労働、そして何よりも重要なのが、利用者や共に働く介護労働者とのコミュニケーションを常に図るという総合的なスキルが問われる。端的に言えば割に合わない。もっと楽な(と主観的には思われる)仕事か、もっと賃金の良い仕事に労働力が移動していく圧力が常にかかる。
 そして人手不足の現場は新規参入の労働者に対する教育の余力を失い、さらなる離職へと労働者を追いやる。ベテランも生活や体調の変化で次々と職場を去っていく。
 したがって、介護労働者や中小規模の事業者から見れば問題の解決は単純なのだ。介護労働者の大胆な待遇改善以外に問題解決はありえない。
 ところが、政府や一部の大規模事業者にとってはそうではない。政府が言うところの「制度の持続可能性」は介護保険にかかる支出の伸びを抑えることだ。したがって「月額一〇万円の待遇改善なんてとんでもない」という話になる。しかし、介護現場が人事上の問題で回っていないという現実は彼らも認めざるを得ない。
 そこで彼らが持ち出してくるのが「IoT、ロボットを用いた業務効率化」である。つまり、機械でできる部分は活用しましょうと言っているのである。大手事業者はこれに乗っかっている。介護報酬は利用者とその状態像に合わせて定まっているので、業務効率化して人件費を浮かせることができるなら利益は大きい。大手なら設備投資も容易だ。しかし、それが利用者と介護労働者に何をもたらすのか、あとの節で述べたい。

●2章 二月から月額九〇〇〇円の賃上げという蜃気楼

 岸田が昨年ぶち上げた「介護労働者月額九〇〇〇円の賃上げ」が今年二月から始まった。これが、ふたを開ければとんでもないペテンだった。まず、実際の支給はまだ始まっていない。支払いは六月分、したがって支給は七月から。事業者が先行して労働者に加算分の賃金を払わなければ補助金の受給はない。当然、経営余力がない事業者は対応できないからどうするのだといえば、最終的につじつまを合わせれば当面は月額一円(!)の賃上げでもよいというのだ。
 ただ、二月の春闘時期に政府肝いりで賃上げをしたという実績のためだけのスタートだった。もっとも、中身がそんなものだったので岸田の成果としての話題にもならなかったわけだが。しかも、この補助金一〇月以降はこれまで通りの処遇改善加算に上乗せされて介護保険料と利用料(つまり人民と高齢者!)に負担がおしつけられていく。結局、政府は介護労働者待遇改善のために財政出動する気はないのである。

●3章 危険な第九期介護計画

 介護保険は三年ごとに見直される介護保険計画に基づいて施策が行われている。二四年度からの第九期計画の審議が今年行われている。前述の通り、介護労働者の待遇改善は全く不十分だが、政府としては二月からの補助金とその加算おしつけで打ち止めの予定だ。代わりに前面に出ているのがIoT、ロボットの活用と、その場合の人員基準の緩和、利用料負担の拡大、要介護一、二の介護保険からの切り離しである。
 IoT、ロボットの活用とはどんなものだろうか? 例えば、監視カメラや利用者の離床を感知する機械で巡回の手間を減らそうという場合。宿直室で次々とセンサーが作動し、一晩中走り回る介護労働者の姿が容易に想像できる。しかもその時、人員基準の緩和によって頼れる仲間はいなくなってしまっているのだ。
 結局、疲弊した介護労働者の離職には歯止めがかからないだろう。介護の危機は深まるばかりで、儲かるのはIT産業だけだ。そして、相変わらずのサービスの切り捨てと負担増だ。第九期計画を今の内容で通してはならない。

●4章 権利としての介護を軸に危機突破を

 結局、資本主義は資本に労働力を提供しない高齢者や障害者を恩恵の範囲でしか生かす気はないのだ。それが容易に「処分」に転化することは歴史や繰り返される虐殺事件が示している。介護は、生きることは、権利である。これを軸に社会を変えていかなければ、介護労働者の大胆な待遇改善は実現しない。
 それを成し遂げる革命が成就した後、もしかしたら未来の私たちの後輩は「待遇改善」という言葉の意味も忘れて高齢者や障害者と笑いながら暮らしているかもしれない。そんな幸せな夢も思い描きながら、障害者、高齢者と共に闘い抜こう。

 


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